おなかへった

全部フィクションだから心配しないでね。

503号室

 

 寂しい。寂しい寂しい寂しい。

せっかく 2週間ぶりに会えたのに。なんでえっちする前はあんなに優しいのに、終わった途端こんなに冷たいの。心の中にある思いやりも体外に出し切ってしまったのかな。またいつもと同じですぐ左手にスマホで右手にタバコだ。私の両手は君を抱きしめるためにいつだってここにあるのに。私にも構ってよ。女の子がえっちで一番大事にするのは終わった後なのに。

 

 スマホの灯りが私を照らす。ブルーライト、目に悪いらしい。見つめているのはバイト先の好きな男の子とのラインの画面だ。優しくてかっこいい。いつでもお姫様扱いしてくれる。もう付き合って二年になるこの目の前の男はえっちが終わった後の話しかけると不機嫌になるから、良い子の私は話しかけない。賢いから他の人に君がくれないものを求めるね。

 

 白いレースの下着に手を伸ばして体に身につける。華奢な私の体に、ブラジャーはただ引っかかってるだけみたいで何も守ってくれない、なんとも頼りない感じがする。

 

 たばこを吸い終えた君は、空いた右手でスプーンをそっと握る。「冷たいなあ。」ルームサービスのカレーライスを口に含んでそっと吐き捨てた。当たり前じゃん。放っておいたらすぐに冷めちゃうよ。あったかいうちに食べきってまたおかわりしなきゃいけないんだよ。ばか。

 

 

 さみしい。さみしい。さみしい。「ねえ、好き。」広い背中に後ろから抱きついてみたけど、君の視線は画面を見たままだった。巨乳で白髪の女の子が必殺技の名前を叫ぶと敵が負けてステージクリアと表示された。

 

 死にたいな。寂しいから死にたい。夜間モードにしてるスマホのホームボタンを押すけど誰からもラインは来てなかった。寂しい。なんでこっち見てくれないの。さみしい。また明日この部屋から出てバイバイしたら次会えるのはいつだろう。まだ日程は決まっていない。二年も経ってもずっと好きでいてくれるのかな。連絡とってない間他の女の子と二人でいたりしないかな。私以外の女の子にかわいいって言ってたらどうしよう。なんで君と私は何回性行為しても1つになれないんだろう。どんな約束を何回しても君を縛れない。ずっと綺麗な君でいるには二人で一緒に死ぬしかない。ここで全部終わらせようよ、死にたいよ。

 

 君の首に両手をそっとまわす。「くすぐったいよ。」と私の手は払いのけられてしまった。さみしい。さみしい。ねえ、好き好き好き好き好き好き。大好きだから一緒に死んで欲しい。

 

 もう一度、スマホを手にとってホームボタンを押すとバイト先の男の子から返信がきた。明日空いてるらしい。ホテルを出たらまっすぐ彼のお家に遊びに行こう。ちょっと安心して寂しさが一瞬消えるけど、私はスマホを手放しても君は画面に夢中なのでまた一瞬で寂しくなってしまった。

 

 ずっと画面を人差し指でなぞってる動作だけだったのに、急に両手で文字を打ち込む君を見て不安になる。画面を覗くと、ゲームの攻略方法を検索しているだけで安心した。浮気してたら殺すから。ホーム画面のパスワードロックも、ラインにもロックかかってるけど何もないって信じて良い?

 

 「ねえってば、好き?」って聴くと、「大好きだよ」とスマホを置いて抱きしめてくれたので私は再び世界で一番幸せな女の子になれた。よそ見しないでね、私以外みたら殺すから。私死んじゃうからね。大好きな君と二人だけで生きていけますように。ほかの女はみんなデスノートに名前書いても捕まらない法律作りたいな総理大臣になろうかな。今日もレンタルした君と二人の世界で眠りにつく。いつまでも満たされないけどいつかきっとふたりぼっちになれますように。私の寂しさが君を呑み込んでいつか二人で死ねますように。